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● 2005/08/25[2005/07/20]
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絶対権力が腐敗を生み出すことは世の常である。
中国においては、党書紀があらゆる権力を一身に集めた「皇帝」である。
しばしば地方では独立王国を形成し、腐敗の温床となる。
地方高官の腐敗に大して、地方の紀律検査委員会や司法機関は介入できない。
たとえ中央紀律検査委員会が直接介入しても、事後監督に終わってしまう。
1996年から地方の視察をはじめたが、メンバーは各官庁から臨時に寄せ集められたものであり、詳しく調査することは不可能だった。
視察は臨時的な措置に過ぎず、長期的には政治・司法体制の保障がなければ、腐敗は解消されない。
現状では汚職摘発機関と司法機関は党委員会支配下にあるため、チェック機能を発揮できない。
そして、党委員会は党書記の絶対権力に支配されている。
党委員会が常務委員会(党書記を含む)という権力中枢をチェックすることは不可能である。
司法機関も脆弱である。
地方では、国有企業や政府部門が敗訴することはほとんどない。
裁判官が政府の圧力を受け、独自の判断を下せないからだ。
公安の地位が検察と裁判所よりも高い。
公安・検察・裁判所は統治のための道具である。
このランクが、法・検・公の順になるかどうかが鍵である。
公安が司法を支配する体制は、変えてはならないということだ。
裁判所の判決は、党政法委員会書記の許可が必要になっている。
また当書紀の命令に背けば裁判長は更迭される。
裁判所は行政部門化しており、人事は地方党委員会が取り仕切る。
裁判では地方政府に有利な判決になるようにできている。
党による法の支配の問題は、経済活動に影響をおよぼす。
「法治の第一の役割とは、政府の行為を制限することにある。
政府の行為が制約を受けないならば、経済に自由はない。
政府の経済への干渉は、政府自体では制御できない」
政治に従属した司法は、一党独裁の維持には好都合だが、経済成長にとっては足かせとなる。
これまで党は、絶対権力を維持するために法を支配下に置いてきた。
だがそれは浄化作用をさまたげ、いわば自家中毒を起こしている。
放置すれば
一党独裁が容認されてきた唯一の根拠である経済成長
までもが危うくなる。
中国共産党は
「一党独裁で市場経済は可能か」
という根本的な問いかけに、改めて直面しているのである。
中国企業は「公有制経済」と「非公有制経済」の2つに分類される。
私営企業は非公有制経済のひとつである。
私営企業は、
「企業資産が私有で、従業員8人異常を有し、営利性を持つ経済組織」
と規定されている。
私営企業は1982年から、ゼロの状態から「重要な構成部分」と認められるにまでなった。
だが、いまでも私営企業の立場は微妙である。
「社会主義市場経済の重要な構成部分」と定義されてはいるが、その発展を「激励し、支持し、導く」にとどまっている。
制度面では、政府は国有企業を強化し、大量の資源をつぎ込む。
国有企業の工業生産額にしめるシェアは3割まで落ち込んだが、国有企業への投資額は6割を維持している。
銀行融資の7割は国有企業向けである。
だが、実際には国有企業は重要な社会的役割を果たしていることも無視できない。
納税額は約4割を占め、私営企業は約5%に過ぎない。
政府の対応から見えてくるものは、
「社会を管理する権力を持ち続けたい」
という強い欲求だ。
いかなるものも、「許可なしに」権力を行使することは許さない。
政権の支配を受けない自立的な組織が民間に生まれることを懸念している。
「史上経済化は、民間の権限拡大をもたらす」
という現実との折り合いがつかない。
政府が経済の管理をやめ、独立した司法制度を確立し、金融システムを商業化することで民間企業も発展するが、そのためには、政府自信が特権を放棄しなければならない。
「中国経済の問題とは政治」ということが見えてくる。
政府による経済支配は深刻である。
私営企業が役人に賄賂を贈る理由として最も多いのが、
①.融資の口利き
②.プロジェクト
③.土地売買認可
④.証明書の発行
の4つがある。
それが全体の約7割を占める。
財政収入源だった国有企業の売却が進むにつれ、今度は政府自信が営利活動に従事するようになった。
いわゆる政府機関の創収(独自に収入を得ること)である。
政府機関の多くはこの「創収」に忙しい。
一般には、政府収入は税収に拠るが、中国の場合は主なるものは
国有企業が上納した利潤
である。
いかなる場合も、政府機関みずから経営活動にかかわってはならないとされているが、実際は当たり前のことになってしまっている。
その結果、
奇妙な現象があらわている。
政府所有の国有企業が赤字を抱えている(1/3は明らかに赤字、1/3は不明と言われる)のに、政府機関が儲けているのである。
政府、警察、学校、さらには解放軍までもが会社を経営している。
政府部門が財政資金を使って会社を立ちあげ、競争領域で民間企業を差し置いて儲けている。
これは、政府権力の乱用による「官営資本」である。
職権を利用して財政資金を投入し、少数の人間がメリットを得る。
利益を得るのは、株主としての政府部門である。
さらに、儲けは財政収入にはならず、職員の給与に化ける。
財政資金を使って会社を運営しながら、財政には還元しない仕組みになっている。
このような「官営資本」の存在そのものが、民間企業の発展を阻害している。
このような現実は、最終的に何をもたらすのか。
長期的に問題になるのは、健全な市場経済を確立することができず、競争力のある民間企業が育たないということになる。
世界トップ企業ランキングにかろうじて入るのは、国有独占企業である。
それも石油・通信・金融などである。
技術力に裏付けられた製造業ではない。
結果として、中国では外資系企業の存在感が強まっていく。
中国企業の競争力は低く、輸出でみると外資の占める割合が増加傾向にある。
1980年代末、輸出に占める外資の割合は9.4%にすぎなかったが、1990年代には15%、2002年には52%となっている。
工業生産では1990年代はじめは、外資が工業生産総額に占める割合は7%だったが、2002年では30%ほどに達している。
「中央政府と地方政府は、外資と協力し、自己の独占利益を強化しようとしている。
国民とわけようとしていない」
という批判も出ている。
政府による経済支配は、腐敗を生み出す温床でもある
あらゆる権限が政府に集中するなかでは、私営企業家は、政府関係者と関係をつけなければ競争に勝ち抜けない。
その結果、両者の癒着がはびこり、とどまることを知らなくなる。
私営企業家が政府に圧迫され、不安であるかぎりは長期的な投資は行わなくなる。
地味な製品開発や技術革新にも資金を投入する意欲は沸きにくい。
政府と一度摩擦が生じれば、「おとりつぶし」のリスクすらある。
結局は短期的な行為に走ることになり、企業の競争力はつきにくい。
証券市場ですら、政府の意思で動いている。
市場に流通している株は全体の1/3にすぎない。
2/3は政府が押さえている取引できない国有株なのである。
証券市場は、圧倒的な持ち主である政府と、多数の小口投資家とに分断されている。
多くの小口投資家は政府の情報操作に踊らされている存在にしかすぎない。
政府の株式支配は、国有企業を買収から防衛するためだ。
国有企業不振の最大要因は、政府支配下の「官僚企業」であるため、経営が不透明になり効率の悪さが目立つ。
国有企業は「政治的使命」を負わされた官僚組織である。
「経営者に所有権はないが権限はある」といわれるように、「内部者支配(インサイダーコントロール)」も国有企業の特徴である。
国有企業のトップは、驚くほど大きい権限をもっている。
人事権を握り自由に採用できるので、身内で固め私物化をはかるのが容易だ。
一銭も投資せずに巨額の企業資金をプロジェクトにつぎ込んで、利益を得るのである。
「稼いでさようなら」
「権力はあるときに使え、期限切れになると無効だ」。
これが国有企業トップのモットーだといわれている。
政府をバックにした国有企業は、権力の象徴でもある。
その内部事情は「国家機密」なみの扱いで、外からはうかがい知ることはできない。
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[ ふみどころ:2012 ]
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