● 2011/06/25
『
欧州人は戦争に疲れ、単に平和に喜びを享受したいと思っている。
これとは対照的に、概してアメリカ人は、世界に邪悪と脅威が存在する限り、たとえそれが遠い戦場であっても、立ち向かう必要があると思っている。
この結果、欧州人は武器にはほとんど金を使わず、軍事的にはほとんど何もできない。
逆にアメリカ人は、陸軍、海軍、空軍にたくさんの金をかけ、どんどん戦闘を行う。
レーガン時代、アメリカは国内総生産(GDP)の約6%を防衛費に費やした。
欧州諸国は概して2~3%、日本はたったの1%だった。
目下のところアメリカ海軍は、比類のない2つの兵器システムを保有している。
他の諸国は、少なくとも今後10年間以上、それにはほとんど太刀打ちできない。
いや、この状態は今世紀末まで続くかもしれない。
その一つは「ニミッツ号」などの、巨大な原子力航空母艦である。
それらは単に巨体で搭載艦載機が多いということではない。
その建造には、一連の驚くべきハイテク技術が求められていることである。
そして艦を機能させるためには、精密科学を用いた多層的なシステムが必要になる。
これらを供給できる産業・兵站システムを新興の世界大国がつくり上げるには、おそらく四半世紀、25年くらいかかるだろう。
その間、アメリカはさらにその先を行っているだろう。
ニつ目の兵器システムは、海軍が持つ攻撃型原潜と弾道ミサイル原潜の艦隊である。
これらを機能させるためにもまた、驚くほど多様な支援産業と技術が求められる。
一方、たとえば中国やインド、イラン、ロシアなどの諸外国は、外洋はともかく、せめて自分の領海内だけでもアメリカの海洋支配から脱したいと思って、いろいろ策を練っている。
各国それぞれ、次の世代に空母艦隊を持つための青写真を作っているかもしれない。
好むと好まざるとにかかわらず、今日のアメリカの基本的な強さは、「ソフト・パワー」ではなく、「ハード・パワー」にある。
アメリカ国民の大半はこれを好んでいないのだが、アメリカの思想的な吸引力や文化的魅力ではなく、圧倒的な軍事的優位を通じて純粋に他国を抑止する能力、誰であろうと叩き潰せる力に依拠している。
一つの大国が、一戦を交えることなしに第二列に落ちることはめったにない。
また、新興国が暴力抜きでトップに立つことはめったにない。
民主主義国は、本物の戦争にならない限り、戦略的に考えることができない。
逆に言えば、アメリカが戦略的に考えていない以上、イラクとアフガニスタンでの作戦行動は、本物の戦争ではない。
』
『
石油と食糧の新たな連関
アメリカと中国への地政学的影響
私が言いたいのは、21世紀の国際システムにおける、石油ないしエネルギーと食糧との相互連環の進化である。
第一に、いまや世界の石油価格は、10年か20年前にくらべて、大きく高値に向かっている。
これはおそらく将来も続くだろう。
その理由はよく知られている。
アジアの大きな国々、特に中国とインドのエネルギー需要の巨大な高まりがある。
これに加えて、アメリカや日本、欧州などの富裕な国々が、消費水準をほんの少ししか下げられない、という現状がある。
この傾向は、石油輸出諸国における湯水のようなガソリン消費の増大によって悪化している。
石油の海に暮らしているのだかから、それを享受しない手はない。
実際、サウジアラビアとイランのガソリン価格は、1ガロンあたり約30セントから50セントである。
ベネズエラにいたっては、7セントという途方もない値段である。
石油価格が高騰すれば、もちろん、人々は代替エネルギーに向かう。
現在、最も好まれているのはエタノールである。
ブラジルでは主としてサトウキビから、またアメリカでは主としてトウモロコシから生産されている。
耕地がトウモロコシに転換すれば、たとえば大豆など、何かそれ以外の作物が減らされる。
大豆の需要もまた地球規模で急上昇している。
主としてアジアでの消費の拡大が原因である。
中国の何千頭もの豚は、おそるべき年間量の大豆飼料をむさぼっている。
大豆価格の急上昇は、アイオワ州などの農民の収入を押し上げる。
世界の人口は全体的に増加し、近年、20億人以上の人々の実質所得が向上している。
したがって、世界的なタンパク質の需要が高まり続けるのか確かだろう。
牛肉、豚肉、鶏肉、魚肉の需要が増えれば、当然、飼料穀物の需要も増える。
世界の都市貧民にとって行き先は実に暗い。
だが、農民にとっては、経済的恩恵が期待できる。
中国にとって、こうした傾向はほんとうに深刻である。
もし中国指導層が、ますます欲求を高める14億人の消費者の需要に応えようとするなら、その中華帝国の外部に、もっとも資源を求める必要がある。
そうなれば、石油、ガス、食糧、木材、鉄鋼、亜鉛、銅などの商品価格は、世界的に高止まりする。
こうした海外依存の増加が、中国の外交政策にどう影響するのかは、興味深い見ものである。
ますます世界的な責務を分担する国になり、世界の安定を求める国になるのだろうか。
それとも、
過去の世紀の新興諸国と同じように、自己防衛のために主として腕力に頼るしかない、
と思うようになるのか。
少なくともこれから先、中国の海軍拡張の勢いが弱まることはない。
そして艦艇が増えれば、守られる貨物船も増えることになる。
アメリカはどうだろう。
アメリカが外部勢力に依存している、唯一最大の弱点は石油である。
これに対して、食料価格の高まりとともに、農業生産も実質的に強まる傾向にある。
過去数十年にわたり食糧があまっていた時代に、アメリカでは膨大の広さの農地が開墾された。
しかし、耕作には使われなかった。
その農地の多くを本来の形に戻して、トウモロコシや小麦、大豆を作ることができる。
高価な牛や豚の生産さえ可能である。
アメリカは、石油依存によって傷つくが、同時に、地球規模の穀倉地帯という自然の恵みによって、国際的な優位を獲得しつつある。
おそらく、世界中の数億人の貧困層を別にすれば、我々の大半は、パンとガソリンのニ者択一に直面しているわけではない。
だが、これから何十年かすれば、この地球上の国々は、穀物や清浄な水、石油などの基本物質を、ますますありがたがるようになる。
資源に乏しい国々は、暗い未来に直面する。
そして興味深いのは、アメリカのように、弱みと強みを兼ね備えている国々のこれからのことである。
2007年12月
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[ ふみどころ:2012 ]
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